サンフランシスコの連邦判事が、シリコンバレーの小さな会社に対してソフトウエア出荷の一時的停止を命じた。そのソフトウエアを使えばマッキントッシュのユーザはソニーのプレイステーション用のゲームをマック上で遊ぶことができる。
ソニーはConnectix社に対し訴訟を起こしていた。Connectix社がエミュレータと呼ばれる製品の制作過程で、著作権侵害、企業秘密の不正使用、不当競争を行ったというのがソニーの主張だ。
木曜日、地方裁判所のCharles Legge判事は、ソニー側が法廷で明らかにした証拠に効力を認め、一時停止命令の判決を下した。
Connectix社の社長Roy McDonald氏は、控訴の意向を明らかにした。また、製品のサポート、及び新製品の開発は続けられ、現在市場に出回っている製品についても消費者は購入できるそうだ。
Legge判事の見解では、Connectix社はプレイステーションのBIOSをコピーし、著作権を侵害した可能性があるという。BIOSとは小さなソフトウエアであり、機械の低レベルな機能のほとんどを制御するものである。Connectix社は自社バージョンのBIOSを製品に同梱しているが、開発過程でソニー製BIOSを使ったというのだ。
Legge判事にとっては、開発過程で使用したということが決定的だった。「最終製品の内容だけが問題なのではない。著作権侵害の判断基準は、どのようにして最終製品が開発されたのかということだ。今回、Connectix社がソニー製のバイオスを違法にコピーしてVGS(Virtual
Game Station)の開発に使用したという証拠は明らかだ。」という。 ソニーコンピュータエンターテイメントアメリカの副社長、Riley
Russell氏は、木曜日に電話でのインタビューに答えてくれた。「彼らはエミュレータの開発に我が社のBIOSを使ったんだ。そして後でそれを取り出して、別のを入れたというわけだ。ソニーのBIOSを使ったおかげで、彼らはリバースエンジニアリングに必要とされるパラメータを大幅に減らすことができたのだ。」
BIOSの役割はさまざまな低レベルのタスクを処理することだ。例えば画像の描画を行なう場合では、BIOSはさまざまな命令を区別し、それぞれの目的のチップにその命令を送る。BIOSのクローンを開発する場合、クローンがオリジナルと全く同じように動作させるまでには、多くの時間が費やされる。わずかな欠陥でもあれば、システム全体に大きな不調をもたらすことになる。
McDonald氏は木曜日に電話でのインタビューに応じ、クローニングは消費者により多くの選択枝を与えるのに重要な役割があり、リバースエンジニアリングは消費者に正しく動作する製品を届けるためには必要不可欠だと語ってくれた。
Russell氏によると、Connectix社が著作権を侵害しないで合法的にBIOSのクローンを開発できる方法もあったのだ、という。
「まず無菌室に入ることから始めるんだ。」とRussell氏は言う。つまり、開発に携わる技術者は、ソニーのBIOSのあらゆる不正な知識なしで出発するということだ。「あらゆることについて記録をつけていく。開発チームはソニーのバイオスにはアクセスすることはない。そしてロジックアナライザを使って、マイクロプロセッサの内部を分析していく。これは難しい作業だが、できないことではない。」
判例では、企業がクローンを開発するに際に、コピーが機械の動作を研究するだけの目的で行われるならば、それを認めている。だがLegge判事は今回のケースと以前のケースとを区別し、こう指摘する。「Connectix社の技術者はソニーのBIOSコードを解析したと認めている。しかもそれはただの研究のためではない。彼らはそれを製品の開発に使用したのだ。」
ニュージャージー州Seton Hall大学のDan Burk法学教授の話によると、この判事の区別は誤っているかもしれないという。というのも、著作権法というのは、再生産を禁じてはいるが、コピーの使用を禁じてはいないからだ。「判事にはある種の公正さを感じるね。この問題があまりにもこれまでの事例とかけ離れているため、判事が自分の公正さの基準に合うような解決法を手探りで探しているって感じだな。でも、それが著作権法のどの部分に当てはまるのか、判断するのは困難だよ。」と教授は語った。
バージニア州William and Mary大学のTrotter Hardy法学教授は、判事の見解に同意する。「ソニーのビジネスモデルは、ゲーム機本体の販売の上に成り立つものなんだ。Connectix社はまさにそのビジネスの中に入っていったのさ。他人が勝手にクローンを作るのを野放しにしているのが公平だとは思えないね。」と教授は言う。
テキサス大学のMark Lemley法学教授は、判事の見解がコンピュータビジネス全体のリバースエンジニアリングを縮小させることになるかもしれない、と言う。「リバースエンジニアリングを行う権利はあるが、それによって獲得した情報を使ってはならない、というように言ってもらっては困る。」と懸念を表明した。
Russell氏は、この判決によって他のソニー製品のクローニングもやめさせたいと語った。「そうなることを本当に願っている。もし誰かが我々の著作権物を侵害しているなら、この判決でそれをやめさせたいと思っている。」
McDonald氏は判事の見解に反対だ。「もしこのままでいけば、消費者にとって損害になる。コンパックがIBMのPCをクローニングしたことで、消費者はさまざまなコンピュータの中から好きなものを選べるようになった」、とMcDonald氏は言う。彼は上級裁判所では判決が覆ると予想する。「この判決は本当に消費者の選択の自由を奪うものだ。そして法律というのは消費者の選択の自由を非常に重視するものなんだよ。」
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